開館30周年記念特別展 「わびと数寄―受け継がれる利休の心―」
特別展の見どころ
第8回 二つの棗 ―一閑張棗と大菊蒔絵棗―
初代飛来一閑作
銘 山路 原羊遊斎作
わびの心に基づき利休が生み出した茶の湯、道具・点前・茶室などは、実用性を兼ね備え一切の無駄が削ぎ落された普遍的な美しさから、その後の茶の湯の基本形となりました。
立ち帰るべき絶対的基準が生まれたことで、利休以降の茶の湯は無限の広がりを見せます。
棗を例にとると、孫の元伯宗旦は、紙張りの上に漆を一度だけ塗った、利休よりも更に簡素な趣の一閑張棗を好んで用いています。
そこにはわびの心の深淵を生涯求め続けた元伯の慎み深くも強い意志が表れています。
幕末の数寄大名、松平不昧は名物道具を多数所持しながら茶入ではなく棗、それも蒔絵のある棗での濃茶を頻繁におこなっています。
わびの心を軸に据えながらも数寄大名としての立場を忘れない、「諸流皆我流」といった不昧の懐の大きな心が、蒔絵棗という形に表れたともいえます。
全ての道具にはその人の心が宿っています。
利休の心を受け継ぎ、時代や立場に応じてさまざまな形へと展開していった茶人達の深い想いを、ぜひ展示道具から思い思いに感じ取ってみてください。